ACN 養殖用種苗生産速報(年計)

2009年9月1日~2010年8月31日

<マダイ>
養殖用種苗尾数 4,483万尾(昨年4,330尾 3.5%増)
ここ数年養殖マダイ相場低迷の影響を受け、種苗生産尾数は減少を続けていた。昨年9月以降も同様な状況で養殖業者の種苗導入意欲は低い状態であったが、春以降のマダイ相場好転により状況は一変した。2009年9月~2010年8月シーズンのマダイ養殖用種苗生産尾数は、山崎技研、近畿大学、ヨンキュウなど24社(民間21社、公的3事業場)で4,483万尾となり昨年対比3.5%の微増となった。図1の韓国向け輸出価格にも顕著であるように、春以降のマダイ相場好転で、マダイ種苗の引き合いは増加し、シマアジなど他魚種への移行からマダイへの回帰が一部見受けられた。しかしながら、ここ数年続いたマダイ種苗の減少傾向のため、各種苗場とも見込み生産は行っておらず、需要を満足させることはできなかった。成魚相場の好転にもかかわらず、種苗単価は昨シーズン同様7円/cmと安値が続いている。夏越し種苗数は482万尾と推計され、本年末までに販売される見通しである。
育成状況としては、各地とも大きな疾病被害は聞かれないが、イリドウィルスによる散発的斃死は起きている。今年は春から夏にかけて海水温変動が激しく、特に8月は表層水温が30℃を超える地域も多く、育成状態への悪影響が懸念される。

<トラフグ>
養殖用種苗尾数 830万尾 ( 昨年1,035万尾 20%減)
昨年末に懸念されたトラフグ成魚の大量越年が回避され、在池数量が急速に減少したことは種苗業者にとっては朗報であったが、年末までには各種苗場とも親魚養成等、種苗生産準備に入っていたため、計画変更による増産体制を敷くことはできなかった。養殖用種苗尾数は大島水産種苗、金子産業、バイオ愛媛などで昨年対比20%減の830万尾で、種苗生産業者数は17社(民間 14社、 公的 3事業場)で昨年より4社減少した。ACNレポートによればトラフグ養殖用種苗尾数が1,000万尾を下回ったのは2007年の940万尾に次いで2度目である。
今春は気温の変動が激しく、春らしい陽気から一転した寒波による急激な水温低下により、沖出し稚魚の成育不良が発生したことも今シーズンの出荷尾数減少の一因である。大部分の種苗場では12月から(養殖物から選抜した)親魚の養成を開始し、2月上旬からの採卵、3月下旬から4月上旬の種苗沖出しであった。養殖場からの引き合いも春先に増加したものの、前述のマダイ種苗同様、各種苗場は見込み生産をやめ計画生産(受注生産)体制を敷いているため、その時点では種苗の在庫も少なく、需要を満たすことはできなかった。
販売価格は6cm up 95円/尾、 7.5cm up 105~110円/尾。種苗の大型化に伴い、養殖業者から種苗場での歯切りの要望が増加しており、その費用は10~13円/尾である。
2009年9~12月に採卵した早期種苗の生産は近畿大学を含めて2社の20万尾であった。そのうちの年内出荷は6万尾しかなく、小ロット、低水温でコスト高の早期種苗は今後とも増加は見込めない。天然魚からの採卵は昨年より約2週間遅く4月6日であった。熊本・天草地区で4kgを4社が75万円/kgで購入した。
図2によれば2008年の収穫量は4,138トンである。2007年養殖用種苗940万尾が翌2008年末までに平均800g/尾で出荷されたと仮定すれば517万尾となり、導入種苗からの出荷歩留まりは55%となる。なお、収穫量のピーク時は1997年で5,961トンである。ACNレポートNO.8(1996.8.31)によれば種苗数は約2,000万尾となっている。前述と同様に計算すると成魚800g/尾が745万尾出荷され、歩留まりは37%となる。実際の売買には無償添付の種苗があるので出荷歩留まりはさらに低いものと思われる。

<ヒラメ>
養殖用種苗尾数 625万尾 ( 昨年693万尾 10%減)
種苗生産業者はまる阿水産、日清マリンテック、長崎種苗など(民間15社、公的4事業場)で養殖用種苗出荷尾数は昨年比10%減の625万尾(年内134万尾、年明け491万尾)であった。早期物は昨年比微増で推移していたが、2008年のリーマンショック後のウォン安での韓国産成魚の大量流入による相場暴落と、疾病による歩留まりの低下を受けて、主産地である大分県で複数の業者の廃業・休業が影響し種苗尾数減少となったものと思われる。価格は早期物を除く年内の浜値は7cm up 90円/尾で、年明け2月以降は80円/尾、8~9cmサイズが中心で取引され、10cm up浜値10円/cmの種苗もあった。景気減退により国内市場が収縮する中で韓国産養殖ヒラメの販売シェアは年々大きくなっており、国産養殖ヒラメ収穫量に匹敵する量が輸入されるものと思われる。明るい話題としては、本年の養殖魚(シマアジを除く)に共通することであるが、春以降の成魚価格の好転が挙げられる。図3に示すように韓国からの輸入価格も春以降上昇してきており、来期の種苗需要の増加が期待されるところである。

<シマアジ>
養殖用種苗尾数361万尾(昨年376万尾 4%減)
ここ数年、マダイなど多くの魚種で魚価低迷や販売不振が続く中、シマアジの魚価は安定していたことから種苗への需要が高まり、いくつかの種苗生産業者はマダイ種苗からの一部転換を図って増産体制を採っていた。その結果、2006年には260万尾だった販売尾数が2009年には376万尾と3年で145%まで増加した。
今シーズン初めは、前述の市況が継続していたために更なる生産増加が見込まれていた。しかし、今春に入ってからマダイ成魚に品薄感が出始め、相場もじりじり高くなるに連れて養殖業者の種苗需要がマダイに回帰するようになった。シマアジ種苗の出荷シーズン後半になると、その傾向は強まり、結果として昨シーズンより販売尾数が減少する業者も出た。
2010年の養殖用種苗販売尾数を集計すると、近畿大学、マリーンパレス、山崎技研など(民間7社、公的1事業場)にて361万尾で前年比4%減となった。価格は8cm up 170~180円/尾で種苗場でのワクチン接種費用は35~45円/尾であった。
シマアジ成魚の浜値は今年の春先からじり安状態であり、ここ数年の全国的な種苗導入尾数増加による在池量の回復が要因の一つとして挙げられ、今後もこの傾向は続くと見込まれる。したがって、来期のシマアジ種苗は需要の減少が懸念される。

文中社名敬称略

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