ACN 養殖概況

<マダイ>
昨年末の養殖マダイ浜値は400円台/kgまで下落し、年明け後も3月までは低迷を続けたが、4月以降、浜値は急転し毎週のように上がり、一気に700円/kgを突破し8月には750~800円/kgで推移した。出荷サイズの在池量は各地とも少ない事から、久々に回復した現在の相場はある程度持続することが見込まれている。こうした相場好転の高値のときではあるが、出荷量は少なく、養殖業者の経営改善までには至っていない。また、魚粉高騰に伴って配合飼料が値上げされて飼料経費が増すことから、マダイ養殖は依然として厳しい状況下にある。
2010年夏期を迎え、依然としてエドワジェラ症や連鎖球菌症の影響が出ている。イリドウィルス症については、大量斃死情報はないものの、昨年よりは被害が多い傾向にあり注意が必要と思われる。また、梅雨以降の水温変動も激しい上、8月には高水温状態が続き、育成にも少なからず悪影響が出ているものと推察される。昨年から見られるようになったハダムシ寄生は、春季に一部で見られたものの、夏期の高水温で沈静化した。しかし、秋以降水温が低下してからの再発、蔓延が危惧されるところである。

<トラフグ>
例年本格シーズン開始時には高値相場となるが、昨年は開始早々の10月でさえ、キロ物で2,000円/kgと弱含みな上に、天然物の豊漁も重なって、11月には1,300~1,500円/kgとなり、12月に入ると1,200~1,300円、年末には1,000円/kgまで下げた。年末には大量の成魚が越年するという情報が市場を支配していたが、低価格のためか、予想以上の出荷があり、年明けには在池量は25%しかないという情報が流れ、弱いながらも上げ相場となり、2月には2,000円台/kgを付けた。
今年出荷する成魚は、昨年4月頃の種苗であり、当時の尾数は1,035万尾と前年対比18%減であった。その上、昨年種苗導入時のシュードカリグス・フグ症や以後の赤潮に続き、本年には高水温での斃死という被害が各地で発生した。このような状況を反映して、8月出荷の800g/尾の陸上養殖物で3,000~3,500円/kgと相場も回復している。
昨年の価格低迷のため、栄養剤の添加、ハダムシ、エラムシの駆除など十分な飼育管理ができなかった養殖場では本年になりビブリオ病など種々の疾病での大量斃死の報告もある。全般的な成育状況としては赤潮、高水温等で十分な給餌ができず例年より1カ月遅れているといわれている。したがって例年では10月からという本格出荷が遅れる可能性があり、品薄感と相まって10月の浜値は3,000~3,500円/kgと予想される。
中国では養殖は引き続き行われているが、生産量はピーク時の3分の1の1,500トンまで減少していると言われている。
中国国内では、トラフグ食解禁の動きも次第に高まっており、3,000~4,000円/kgで取引されたという情報もあり、中国のトラフグ食解禁情報から目が離せない。

<ヒラメ>
昨年後半は韓国産成魚の大量輸入こそなかったが、国内消費量減少の影響は大きく、年始の浜値はキロ物1,100~1,200円/kgまで下落した。しかしながら、ゴールデンウイークに向けて相場は上昇に転じ、さらに韓国での在池量減少による輸出制限情報や昨年の種苗導入尾数大幅減という情報でキロ物1,700~1,850円/kgまで上昇し、8月には四国の一部で2,000円/kgの高値も聞かれた。
成育状況については夏場の疾病問題が依然として解決されておらず、新型連鎖球菌症やエドワジエラ症が生産者を悩ませているが、主産地の大分県では一部地域を除き、昨年に比べれば良好である。9月になっても赤潮による青物被害の情報があり、ヒラメへの被害が懸念されるところである。これから年末にかけて韓国産成魚の輸入が増加する見込みで、さらに円高が追い打ちをかけて、価格は徐々に下落していくものと思われる。出荷歩留まりが低い養殖場ではヒラメからトラフグへの養殖魚種転換も見受けられた。今後の成魚相場には韓国ウォン為替の動向と韓国内の成魚の在池量の推移が大きく影響していくと思われる。

<ブリ・ハマチ>
本年のモジャコ採捕は解禁当初から豊漁に恵まれ、サイズも昨年に比べて大型であった。一方でブリの相場低迷が続いた影響で廃業もしくは縮小に至る養殖業者もあり、全国のモジャコ導入尾数は前年とほぼ同数の約1,900万尾と思われる。
7月に入ると猛暑と大雨の影響で九州南西部を中心に赤潮が大量に発生し、鹿児島、熊本、長崎の3県合計でブリ、カンパチ、シマアジなど280万尾が斃死するという昨年を上回る史上最悪の事態となった。また、ハマチ当歳魚の被害が、県の発表以上に大きく、ある漁協では約3分の1が斃死したとの情報もある。2年連続の甚大な被害に養殖業者は当面の経営と来期以降の被害に不安を抱えることとなっている。
相場については、モジャコ導入尾数が年々減少していることや昨年の赤潮被害による在池量減少、カンパチ相場上昇による後押しなども影響して、過去5年と比較して高値傾向と言える。昨年秋には4kg後半のブリ新物が四国にて750~780円/kgまで上がり、その後は各地で出荷サイズが揃い始めたために年明けには鹿児島にて580円/kgまで下がったものの、その後は在庫に品薄感が出始めて上昇となった。本年8月時点で、3年魚が800円/kg台前半、新物2年魚で700円/kg台後半であり、昨年と同値程度となっている。
前述の赤潮被害に加えて、カンパチ相場の上昇やブリ3年魚の品薄感によって、ハマチ2年魚の出荷が促されたことによる在庫消化が相場上昇要因として挙げられる。一方で相場上昇は消費量減少を生じさせることから、好相場の持続は楽観出来ないと言える。
生育状況については、魚病の発生では大きな被害は聞かれていない。また、例年に比べて高水温で推移したため順調に摂餌し、赤潮のため長期間の餌止めを余儀なくされた地区を除けば成長も順調と言える。

<カンパチ>
カンパチ稚魚の導入については、昨年は中国での稚魚大量斃死の影響があったため、約800万尾と一昨年比減となったのに対し、今年は約900万尾に増加した。
相場は、一昨年は安値で推移したため養殖業者を悩ませたが、昨年8月以降になり、2年魚の成長遅れによる供給不足で徐々に上向き、年内は800円台/kg後半が維持された。
年明けには更に品薄感が出始め、相場は上昇し本年9月時点で1,200円/kgの声が聞かれている。この相場上昇によって荷動きは減少しているものの、昨年の稚魚尾数減や成長遅れによって依然として売り手市場が続いており、末端市場での取扱量減が不安材料だが、品薄感は続くと見られることから当面大きな下げはないものと思われる。
カンパチ人工種苗については本年近畿大学が15cm up、ワクチン接種で30万尾を販売した模様である。今後の完全養殖への足掛かりとして期待される。

<ヒラマサ>
昨シーズンのヒラゴ(ヒラマサ稚魚)漁はやや不漁となり、導入量は一昨年と比べて2~3割減と言われていた。今シーズンも当初から不漁であり、導入予定であった業者は確保に苦慮し、最終的には昨シーズンの半分程度の導入と言われている。また、現在中国でも稚魚が採捕されているが不漁との情報が入ってきており、国内養殖尾数は年々減少傾向である。
浜相場は、昨年は900円/kg前後で大きな変動はなかったが、年明けから青物全体の品薄感に引っ張られ、1,000円/kgに上昇。本年8月時点でボート積みにて1,100~1,150円/kgと言われている。このように導入尾数が減少していることから、今後もこの相場は継続するものと思われる。

<シマアジ>

昨年のシマアジの浜値は1,500円/kg前後で、相場が低迷していたブリ、カンパチ、マダイなど他魚種に比べて高値になっていた。その影響からか種苗への人気は高まり、導入尾数は2006年以降徐々に増え、昨シーズン実績は376万尾となった。しかしながら、他の魚種と同様に不況による消費低迷の影響を受け、市場での取引数量は前年割れとなっていた。 こうして徐々に需給のバランスが崩れ始め、今年の春先には浜値が下げに転じ、本年8月には1,250円/kg(愛媛県)となっている。
成魚在池量は今後も潤沢な状態が続くと思われ、相場は当面保合もしくは下げが予想されるが、シマアジ以外の主要養殖魚種の相場上昇に、追随する可能性も考えられ、市場全般の動向から目を離せない。

<アユ>
昨年度の養殖生産量は前年度比3.4%減の5,667トンとなった。放流量は前年度比3%増の1,053トンと僅かではあるが2年連続で増加した。河川放流用の海産・河川産種苗と人工種苗の割合は、一昨年度は海産種苗の不漁が原因で人工種苗の比率が増加したが、昨年度は海産種苗が順調に採補され3年前とほぼ同等の比率となった。全国的に養殖生産量は減少傾向だが、岐阜県は急激に増加しており、昨年度は一昨年度の5位から徳島県と滋賀県を抜いて3位となっている。これは大手業者の養殖施設増設による増産の結果である。
価格は昨年と比べて100円/Kg以上安く1,000円/Kgを割り込むこともあり、これからシーズン終盤にかけてサンマの不漁によるアユ消費増加が、どこまで生産者価格に反映するか微妙なところである。今シーズンは、飼料価格改定による生産原価上昇の状況下で、販売価格は下落しており、アユ養殖業者の経営は厳しい局面にあると思われる。

文中社名敬称略

PAGE TOP