<マダイ>
2010年春以降マダイ相場は好転し、700円/kgを超え800円/kg近くまで上昇した。販売サイズの在池量が少ないことが要因であり、高値での実質荷動きは活発だったとは言えないが、相場回復は望ましいことである。年末においても700~730円/kg、2kg物では750円/kg程度で、大幅な値崩れは起きないまま推移した。マダイ在池量は少なく、現在の相場傾向は当面継続されるものと推察される。昨夏の猛暑による高水温に代表されるように、育成環境は厳しいものであり、マダイにおいても若干の成長低迷が起きたと見受けられる。相場状況からも、出荷サイズへの早い到達が高値販売へ繋がることから、コスト削減と同時に高成長追及も求められる様になっている。疾病等では、依然としてエドワジェラ症による被害は大きく、マダイ養殖における最大の斃死要因となっている。イリドウィルスによる斃死は、近年の中では多く発生した傾向にあるが、大規模な斃死には到っていない。
種苗生産量減少、イリド被害などマダイ種苗数は減少傾向にあり、出荷に適したサイズの在池尾数も減少傾向にある。これを受け相場状況が好転していることから、マダイ養殖業界の活性化が今後期待される。
<トラフグ>
2010年10月からのトラフグ商戦は品薄状態でのスタートとなった。その要因としては(1)2009年の養殖用種苗尾数の減少 (2)種苗導入時のシュードカリグス・フグ症による斃死 (3)夏期の高水温時の各種疾病による斃死等が挙げられる。
10月の浜値は一部では3,000円/kgが付いたものの、全般的には海面養殖物2,200円/kg、陸上養殖物2,500円/kgで始まった。昨年に比べれば養殖業者にとっては順調な滑り出しに見えたものの、予想に反して出荷量は伸びず価格の独り歩き状態となった。一方、この時期に順調に出荷された物が、2009年の年末にかけての大暴落(1,000~1,200円/kg)によって冷凍加工されていたトラフグである。これらの在庫が2010年の相場下落の要因となるのではと懸念されたていたが、11月中旬までには出荷完了した模様である。また、中国産トラフグ生産量も2010年は激減したため、輸入量は前年の半分程度に減少し、価格は1,100~1,300円/kgに上昇している。在池量、冷凍在庫、中国産輸入量ともに減少し養殖業者にとっては好条件が揃った状況であるが、夏期高水温時の給餌制限のため成長は前年より一月遅れであった。この成長遅れが原因か否か、例年になく0.7~0.8kg/尾の小型の引き合いが強く、ここにも不景気の影響が感じられる。
2010年12月の浜値は0.7~0.8kg物 2,000円/kg、1kg物 2,100~2,500円/kg、1.2~1.5kg物 2,300~2,600円/kgで推移し、年明け後は約10%上昇している。尚、白子比率の高いロットの引き合いは強く比率40%で200~300円/kgプラスとなる。また陸上養殖物は海面養殖物より浜値で200~300円/kg高いようである。
このように、相場は堅調であるが、ここ数年の導入種苗からの出荷割合は低下しており、特に海面養殖にこの傾向が強く個々の経営体にとっては厳しい状況である。2010年に海面養殖場に導入された種苗(当歳魚)は前年にも増してシュードカリグス・フグ症や粘液胞子虫症(ヤセ病)で減耗しているので2歳魚は貴重な財産である。今後は本年の夏期高水温時の飼育管理が経営上重要なポイントになるであろう。
京都府に続き、東京都でもフグ調理師免許保有者以外でも身欠フグを扱えるように条例の見直しを進めており、トラフグ消費の増加が期待されるところである。
<ヒラメ>
2010年8月には韓国での在池量減少による輸出制限情報等のためキロ物で1,700~1,850円/kgまで上昇し、四国の一部で2,000円/kgの高値も聞かれたが、その時期には出荷サイズも少なく高値での販売数量は僅かであった。その後、韓国産輸入価格が下落を始め、それに追随するように国産浜値もずるずると下落していき、12月にはキロ物で1,100円/kgとなった。 年明け後、韓国内で口蹄疫と鳥インフルエンザ発生のため魚の需要が高まり、韓国から輸出量制限と価格値上げの通知が日本に届き、国内養殖業者は相場の回復を期待したものの、依然として韓国からの輸入は継続しており、輸入価格も100円/kg戻した程度である。しかしながら、昨年の種苗導入尾数が少なかったことから、韓国産の動向次第だが、今後の相場上昇が期待されるところである。
成育状況については、夏場の新型連鎖球菌症、エドワジエラ症や各種合併症が生産者を悩ませているが、主産地の大分県での被害は2009年よりは減少した。一方、高水温の影響のためか、9月になって発生した赤潮を取水した数社でヒラメ斃死の被害が出た。大分県では数社がヒラメ以外にカワハギやトラフグを導入しており、今後他魚種導入業者が増加する可能性がある。
<ブリ・ハマチ>
昨年のブリ・ハマチ相場は、年々続くモジャコ導入尾数の減少や夏場の赤潮被害などによる在庫量の減少、カンパチの高値の影響で持ち直しを見せた。相場の変動はあったものの、本格出荷の秋以降も順調な出荷が予想され、買い手側には年明け以降の品薄が懸念されていた。
しかしながら、秋以降天然物が豊漁となり、年末の大時化で一時的に注文が増えたもの、養殖ブリ・ハマチの荷動きは全般的に停滞気味である。年明けのブリ相場は鹿児島地区にて5kg物で580円/kgとなっており昨年並みの水準に近いといえる。
2年連続の赤潮被害などによって成魚向け在庫は前年より少ないと見られているが、今後の需給状況が不透明であり、相場の予想が立てにくい状況にある。
一方、輸出向けの加工物は相場が一般価格より高く、販売も伸張傾向にあることから、新たな販路先として期待されている。
<カンパチ>
カンパチの成魚相場については、在庫の品薄感から一昨年後半以降徐々に値を上げ、昨年秋にピークの1,200円/kgまで上昇した。しかし、その後は夏場の需要が高い魚種であることに加えて高値による需要減退が生じ、下げに転じた。
年明けの相場は鹿児島地区にて1,050円/kg前後まで下がったが、消費地側としてはまだ前年より高いとの認識があり、動きが鈍い状況が続いている。売れ筋サイズの3kg後半を超えた4kgアップの在庫も増加しており、相場も下げ傾向と見られる。
元々の稚魚導入が少なかったこともあり、在池量は前年同等と見られているが、荷動きの鈍さが今後の市況に与える影響が懸念されるところである。
<ヒラマサ>
昨シーズンの国内ヒラゴ漁は不漁であり、中国での採捕に期待されたが振るわず、結果として種苗導入尾数は前年比大幅減となり、国内養殖尾数は年々減少している状況である。
浜値については、一昨年は900円/kg前後で安定していたが、その後、他の青物に引っ張られて上昇し、昨年夏以降は1,150円/kgとなっている。 相場上昇に伴って荷動きは鈍化し、特に昨年後半は天然物ブリが豊漁で安値となり、そちらへのシフトも見られた模様である。年明けも荷動き悪い状態が続いているが、相場は保合状態である。 導入減によって在庫は潤沢ではないが、ヒラマサは消費地区も限られることから今後の需給バランスによって相場の変動も予想される。
<シマアジ>
一昨年までマダイやブリ、カンパチの相場が安値安定となっている中で、シマアジは1,500円/kgの保合状態が続いていた。その影響から2006年以降は種苗導入が徐々に増え、2009年には376万尾となった。
種苗導入増加によって数年後には成魚サイズの在庫過剰による相場下落が懸念されてはいたが、昨年春頃から現実化してきた。昨年夏場には1,250円/kgとなり、その後も徐々に値を下げて年末には1,100円/kgとなっている。年明け後も在庫は豊富と見られ、各業者には荷動き悪いとの思いがある。景気低迷の中、需要が高まる見込みは薄く、年々増産した種苗が継続して出荷サイズとなるため、今後益々の買い手市場となることが予想される。
<アユ>
平成22年の東京市場への出荷量は前年より増加し3年ぶりに800tを超えた。生産量減少にもかかわらず東京市場への出荷量増は、地場での消費低迷にの影響と思われる。平均単価は1,256円/Kgと前年を約130円/Kg下回った。 現在各池では種苗の導入時期を迎えている。琵琶湖の特別採捕は前期同様に12月1日から開始され、予定数量は前期の30tより更に少ない26tであったが、採捕情況が悪く、僅かに予定数量に達しないまま12月末に終了した。種苗の状態は、全体的に小さく、今後の歩留まりが懸念されている。人工種苗は若干遅れ気味であるが、予定通りの尾数は生産され、各地に池入れされている。
これら状況を踏まえると、廃業などによって生産業者は減少しているものの、前年度の冷凍アユ減産の反動から生産意欲が拡大していることもあって、今期のアユ生産量は前年より増加する可能性がある。市場価格の大幅な上昇はこの不況下では期待出来ないので生産者にとっては、歩留まり向上による原価圧縮と、新たな販売ルートの開拓による販売単価上昇が急務となっている。
以上