トラフグ養殖について

2009年9月
太平洋貿易(株)  田嶋 猛

<日本のトラフグ養殖>
トラフグ養殖は1964年山口県水産試験場で生産された種苗を用いて開始されたが、養殖収穫量が100tを越えるまで17年(1981年・163t)の歳月を要した。
当初の養殖方式は、海面イケスであったが、1998年頃からヒラメ陸上養殖業からの魚種転換により陸上タンク掛け流し養殖も始まり、その後、陸上循環ろ過養殖も加わって、現在3種類の養殖形態がある。2008年の形態別の経営体数は海面イケス・269社、陸上掛け流し・22社、循環ろ過・8社(半循環ろ過も含む)であった。
2007年の養殖トラフグ(フグ類)の生産額はブリ類、マダイに次いで第3番目であるが、魚類養殖全体の4.2%に過ぎない。内訳は生産額順にブリ類1,134.7億円(159,750t)、マダイ554.5億円(66,663t)、フグ類91.3億円(4,230t)、ヒラメ73.6億円(4,592t)であった。なお、収穫量の上位3県は長崎県(2,396t)、熊本県(601t)、愛媛県(446t)の順であり、1988年以降この順位に変化はない。

<海外のトラフグ養殖>
中国のトラフグ養殖は、福建省、浙江省沿岸で1980年代後半から台湾資本と日本人技術者により海面イケス方式で始まったと言われている。 その後、これら両省沿岸海域で発展するかに見えたが、疾病等の問題で次第に終息していった。一方、渤海湾沿岸の放置されていたエビ養殖用土池では、1995年頃から粗放的養殖+越冬用屋内タンク養殖が急速に発展していった。その後、活魚輸出目的の水温馴致用海面イケスが養殖用としても利用されるようになり、この3形態を季節・用途により組み合わせて養殖している。2006年の生産量は約4,500tと言われており、同年の日本の養殖収穫量(4,371t)とほぼ同じである。フグ食禁止の中国では、これらの大部分を日韓両国に輸出している。中国に先立って養殖技術を有していた台湾でも1995年頃に日本からの受精卵や種苗(TL30mm)によるトラフグ養殖が北東部の宜蘭、基隆で行われたが、成魚の対日輸出手続きの煩雑さ等で自然消滅していった。一方、日本と同じくトラフグ消費国である韓国でも養殖への関心は高いものの、海面イケス養殖に適した本土沿岸には、冬季海水温が10℃以下となる海域が多くトラフグ養殖には不適であり、他方、水温条件の適する済州島には海面イケスを設置できる内湾が無いため海面養殖は発展しなかった。なお、済州島ではヒラメ陸上養殖場でのトラフグ養殖も少量ながら継続している。

<今後のトラフグ養殖>
日本のトラフグ養殖業者の中には2008年北京オリンピックを契機に、中国内でのフグ食解禁を期待する声があったが、現在も許可されたレストラン以外でのフグ食は禁止である。しかし、昨今の日本国内価格低下で、中国の生産量は急速に減少しており、ピーク時の半分以下と言われている。しかも、飼料、人件費、燃料代等の生産コスト上昇でトラフグは中国の養殖業者や種苗業者にとって魅力の乏しい魚種となっており、フグ食解禁の推進や淡水フグ類への転換が加速するものと思われる。
日本では例年10月から本格シーズンに入るトラフグ需要だが、2008年の種苗尾数(2007年比+33%)の増加と昨今のデフレ傾向に加えて、新型インフルエンザの影響で価格の下落が予想されている。今後もこの傾向が続けば日本の養殖トラフグ業界は縮小せざるを得ない状況にある。しかし、その中にあっても、生残率の比較的高い養殖業者(陸上養殖業者等)は、現状の生産規模を維持していくものと思われる。また、韓国では価格が下落したヒラメ代替として、一部業者はトラフグ陸上養殖を始めており、今後の動向が気がかりである。
本文は平成21年度日本水産学会九州支部例会 シンポジウム -九州発フグ研究と生産技術開発の最前線- の講演要旨に一部加筆したものである。

以上

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