養殖用種苗生産速報

養殖用種苗生産速報(2002年9月~2003年8月) ACN総評
1.マダイ
2年連続前年比30%減 年末には魚価回復か!

養殖用出荷尾数は5,000万尾(民間32社の推定尾数)と昨年より1,500万尾減少し、しかも種苗業者による夏越し稚魚在庫も相当数あるものと思われる。

昨年の夏以降の成魚価格暴落に端を発した海面養殖業界の低迷はマダイの在庫整理にめどが立たない限り収束しないといわれている。市場には換金目当てでの投売り状態の成魚もあり数量的に相当量が流通しており、さらに昨年は1昨年比1,500万尾減少しているので本年末には市況回復の兆しが見えるものと思われる。しかしながら、相当数の種苗業者は経営的に限界状態であり、なんとか耐え忍んでいるというのが現状である。養殖業者からは「稚魚を入れるから・餌を買うから成魚を売ってくれ」という言葉が例年になくよく聞かれたようだ。

種苗単価は当初7cmUPで浜値70~80円/尾で推移するものと思われたが昨年秋のたて仔の乱売時には、10cmで50円を切る種苗もあり、混沌として実際の価格がつかめないのが実情である。このような逆風の中、近畿大学は品質重視の種苗が着実に実績を伸張させつつある。また昨年苦労した山崎技研では親魚の選抜から着手したため仕込みは遅れたものの800万尾の出荷を達成し「こういう状況下としては頑張った」(山崎専務)との事であった。

2.トラフグ
ホルマリン問題で種苗需給にも異変、中国産の動向に注目

2000年秋は中国産養殖物(異臭、小型)の本格的輸入の影響を受けて価格が暴落したものの2001年、2002年は中国産の品質の向上と輸入量の減少によりキロ物の浜根は4,000~3,500~2,500円/kgで推移した。これを受けて種苗需要も堅調に推移していたが、昨年末からくすぶり続けていた長崎県鷹島町のホルマリン使用問題がTV報道を機に一斉に新聞各紙が継続的に報道をはじめ、しかも、長崎県が県費による廃棄処分決定と報じたため種苗需要の期待が高まったが一転県費使用を否定したため種苗需要には一服感が出て6月中旬から過剰気味となり熊本、長崎では50~100%無償添付などという乱売合戦となってしまった。この中にあって長崎種苗と大島水産種苗の2社合わせて昨年を上回る375万尾を販売した。

養殖用種苗出荷尾数は1,350万尾(民間31社の推定尾数)で昨年より150万尾減少し、種苗価格は1月出荷の早期物5cmUP、115円/尾と昨年並みでスタートしたが前述のように6月下旬となると乱売状態で実質価格30円/尾というものもあった。

国産トラフグの減産が予想される一方、中国産については200gサイズの中間魚から成魚に至るまで輸入される見通しでありその動向が気になるところである。

3.ヒラメ
過去最低の1,000万尾割れ 更に種苗在庫あり

養殖用種苗出荷数は過去最低の950万尾(民間26社の推定尾数)と昨年より450万尾減少した。

この原因は継続的に輸入される韓国産ヒラメと不況による高級魚消費の低迷のため養殖業者のタンクが空かず、しかもヒラメ価格が昨年同様キロ物で浜根1,100~1,500円がと低迷しているため種苗導入時期が後退しているためである。

また、種苗生産過程ではVNN症、VHS症等のウィルス性疾病、細菌性疾病や奇形魚の発現率が年々高くなり種苗生産量は激減した。この状況下6月には種苗が不足するとの予想で生産したものの養殖業者の在庫調整ははかどらず約25万匹(10cmUP)の稚魚が種苗業者サイドの在庫となっていると思われる。このような状況のなか設備を増強した長崎種苗が例年を上回る90万尾出荷したのが注目される。

単価について10月出荷で6cmUP、85~100円/尾でスタートし、11月からは7cmUPが中心に70~90円/尾、年初~6月まで60~70円/尾で推移した。

韓国産ヒラメの現地価格は10,000~12,000Won(1,000~1,200円)であり韓国養殖業者も経営的に限界状態となり忠武、麗水では廃業が相次いでおり主産地は済州道となっており、運賃等を考慮した場合日本市場において韓国産が圧倒的な競争力を保っているとは言えず、日韓双方の養殖業者の我慢比べ状態である。

4.シマアジ
種苗の引合いは上昇するが生産量は昨年並み

カンパチ、ハマチの青物価格が低迷するなか、ここ数年種苗供給数が少ないシマアジは浜根1,600円/kg以上で安定しており人気魚種となっている。

養殖用種苗尾数は310万尾(民間6社、公共2事業場の推定尾数)で昨年より5万尾減少した。養殖業者は昨秋から種苗導入意欲が高くシマアジ親魚保有各社は増産を計画したものの例年以上の出荷が出来たのは山崎技研のみであった。業者はPCR検査装置を導入するなど努力しているものの親魚確保・選別、ウイルス対策、生物餌料の選択など初期減耗対策に解決すべき問題が多々あることを示唆している。

5.メバル 
隠れた人気魚種

最近、養殖場からメバルの引合いが多くなってきている。
養殖用種苗出荷数は120万尾(民間3社の推定尾数)で6cm、60円/尾であった。

メバルは成長は遅いものの100gを越えれば商品となり10M角生簀で10万尾収容でき、低水温域でも養殖できることが魅力である。過去、1生簀で1,000万円の水揚げの例もあったという。

卵胎生のメバルは6cmサイズまでに150日以上と長期間要するが10万尾単位で出荷できるため種苗業者にとってはそれなりに魅力的な魚種である。公的機関では広島県栽培漁業協会が放流用として30万尾以上生産している。

親魚には成長が良いとされる韓国産が使用されることもあるが、選抜育種されれば更に高成長の稚魚が出来るのではと期待される。

6.アユ
人工種苗の伸張

種苗数としては放流用1,164t約1億尾、養殖用(成魚出荷)9千万尾(8,000t生産90g平均として)合計約2億尾が出荷されている。もちろん病気の被害・他での減耗を考えれば、種苗段階で流通している量は、2~4割増しと思われる。

7年前は、出荷量の7~8割を琵琶湖産種苗に依存していたのに対し、現在は約6割を人口種苗に依存する様になっている。原因は湖産の冷水病等病気の被害と、人工種苗生産技術の向上にあると思われる。

かつては人工種苗の生産数は公共機関、民間業者合計で6,000~7,000万尾であった。しかし近年、種苗販売専門業者や養殖場併設業者の生産が増加し約14,000万尾と推測される。

種苗場も増加し公共機関(第3セクター含む)約40事業場、民間(漁協等含む)30社の事業場があると思われる。

人工種苗としては、放流では、友釣りでの追いが悪い(野性味に欠ける)等の問題や、養殖では成魚出荷時の、鱗の大きさや魚体形状の違い等の問題、産卵時期をずらした冷凍用や子持ち用の養殖用種苗の安定生産等、今後改良すべき課題(要望)も多い。

7.その他

ひれ物としてはオコゼ・カサゴ・マサバ・クエ・マハタ・ブリ・カンパチ・ヒラマサ・ホシガレイ・マコガレイ・マツカワ・カワハギ・ウマズラ・スズキ・イサキ・クロソイ・ミルクフィッシュ等が生産されている。

(文中社名敬称略)

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