2009年アルテミア耐久卵の供給見通し

2009年1月15日
太平洋貿易株式会社
代表取締役社長 田嶋 猛

米国GSL産:大幅好転は期待薄
中国渤海(ボッカイ)湾産:品質再評価で引合い強まる

このレポートは昨年まで、「GSLアルテミア耐久卵の供給見通し」のタイトルでお届けしてきた。アルテミア耐久卵は、米国のグレートソルトレイク(GSL)、中国、南米、ベトナム、タイ、中央アジア諸国などで産するものの、質量両面から、GSLが一大産地だったためである。例えば90年代までは、日本が輸入するアルテミア耐久卵の90%以上がGSL産だった。しかしながら2000年以降、GSLでの収獲量および品質は不安定化し、ここ数年、それがより顕著になってきた。このため、GSLのみに依存していては安定確保が覚束なくなってきている。代わって伸びてきたのが中国渤海湾産で、2008年(1~11月)の日本のアルテミア輸入量は初めて、渤海湾産(18t)がGSL産(15t)を上回った。そこで、本レポートのタイトルも標記のように改め、米国GSL産と中国渤海湾産の二本立てでご報告したい。

<備考:本レポートは(有)湊文社発行月刊アクアネット2009年2月号に掲載されています。>


米国GSL産の状況
収獲量は一昨年並も、品質面は未知数

ここ数年の米国GSL産は、ふ化率90%以上の耐久卵が減少傾向にあり昨シーズンは品質・数量ともに最悪だった。
現地からの情報によれば、今シーズンは、漁解禁直前の9月末時点での湖水面の下降が予想以上で、昨年よりさらに1フィート下がっていた。これは、約40年前に記録した最低水位まであと3フィートという水準で、一般市民のレジャーにも影響が出ているという(写真1~4)。このため、港の一部では浚渫が行われているが、湖面での漁自体はほぼ通常通りに行えたようだ。 すなわち、例年通り10月1日に解禁となり、開始当初は悪天候もあって収獲量が著しく少なく心配されたが、11月半ばまでの累計量ではほぼ前年並になった。収獲量はその後順調に伸び、2009年1月9日時点では、バイオマス(ウェット状態)で1730万ポンドと、昨年1月末の終漁時の1480万ポンドよりも約17%多く、一昨年並の収獲量に回復している。この漁模様が続けば、今期トータルでは2000万ポンドを超え、昨シーズンより30%以上多く収獲できそうである(表1)。

ただし、懸念されるのは、良質卵が収獲されると言われる湖上での収獲割合(%)が減少していることだ。今シーズンは42%で、昨シーズンと比べても3%少なく、一昨シーズン比では実に30%以上少ない。また、前述した湖水面の低下は、塩分濃度の上昇を招き、アルテミアの餌料となる藻類に悪影響を与える。さらに、秋の気温が例年より高かったこと、急激な荒天なども、卵の品質にとってはマイナス要素であろう。とはいえ、現時点では推測の域を出ないわけで、品質・数量とも、冬眠期の終わる2月初旬まで、断定は禁物である。
一方、価格については、円高の恩恵を期待したいところだが、現地の組合組織化が一段と進み、アウトサイダーが少なくなったこともあって、供給者側は強気である。
以上から、GSL産の品質・価格・数量が昨シーズンより大幅に改善されるのは、現時点では望み薄であり、今後は日本市場で流通する商品の“ふ化率の基準”を90%から85%に下げることも考慮に値すると思われる。また、ここ2年間、製品の常温保管中の急速なふ化率低下問題が発生しているため、保存テストも必要なことから、今期のGSL産の対日輸出開始は3月になる見通しである。


中国渤海(ボッカイ)湾産の状況
元種はGSL産、商品供給は12~1月から

中国の渤海湾産アルテミアは、日本では長年「天津産」と言われていたが、実際の産地は、天津市を含む河北省から山東省の渤海湾沿岸域である。かつて製塩業が盛んだったこの地域には塩田が多く、アルテミア(中国では「豊年虫」と称される)が自然に生息しており、その成虫や耐久卵はエビの養殖に利用されていた。製塩業の衰退とともに塩田跡地は一般に開放され、エビや魚類の養殖池にも転用されたが、アルテミアの産地としても昔以上に重要になっている(写真5・6)。
この地域の塩田跡地は冬期には乾燥状態となり、そこで越冬した耐久卵が、春に導入された海水中でふ化・増殖するとともに新たな耐久卵を生産するので、現地のアルテミア業者は6~11月にかけてそれらを収獲している。1990年以前に日本に輸入されたものの卵数は15万~17万粒/gであったが、GSL産が元種として持ち込まれてからは現在の26万~28万粒/gとなっている。また、脂肪酸組成で10%以上のEPAが含まれていることが、渤海湾産の特徴である。
「中国産」と聞くと、「ふ化率が悪い」というイメージが先行しがちかもしれないが、高ふ化率の良質卵もあり、韓国では約5年前から、ふ化率90%以上の中国産が普及しているという。中国における主な収獲地としては、渤海湾の他に、青海省を中心とする内陸の塩湖があるが、良質卵の安定供給元は渤海湾沿岸と言われている。収獲時期は前述の通り6~11月だが、早期収獲分は品質が不安定のため、本格的な収獲は9月からで、商品が市場に出るのは同年12月か翌年1月からになる。
現地からの情報では、今シーズンの渤海湾産のふ化率90%以上の製品は、昨シーズンより20~30%少ない約80tと予想されている。しかし、米国と違ってバイオマスのデータがないので、その数字は憶測に過ぎない。
GSL産の“ふ化率90%卵”の飛躍的な供給回復が期待薄であることからも、中国産への需要は引き続き増していくことが予想される。それを裏付けるように、昨年後半以降、他国からのオファーも急激に増え、これを受けて中国国内でも新たな業者が参入してきており、価格は上昇傾向にある。ただし、これまでの“実績”では、良質な商品は限られており、安定供給できる業者もそれほど多くない。「サンプル最高、現物最低」など、低価格・低品質品も出回っているので、留意すべきである。

PAGE TOP