NPO法人ACN(アクアカルチャーネットワーク) 理事長 田嶋 猛
日本のトラフグ、ヒラメ養殖
2005年、日本の漁業生産額は1兆6,007億円、海面養殖業は4,392億円、魚類養殖は1,918億円(268,921トン)で、前年対比 金額で2.4%減少し、数量で2.5%増加した。
魚類養殖内訳は金額順にブリ類1,054.7億円(159,741トン)、マダイ488.7億円(76,082トン)、フグ類102.8億円(4,582トン)、ヒラメ69.5億円(4,591トン)と続く。
トラフグ、ヒラメの養殖は、1980年頃から着実に発展を続け、生産量のピークは1997年でその後、減少している。
養殖方式は、トラフグについては海面イケス、陸上タンク掛け流し、及び陸上循環ろ過方式の3方式があり、生産量比率は90:8:2と推定する。一方、ヒラメについては海面イケス養殖はほとんど姿を消し、陸上タンク掛け流し方式となった。
日本のトラフグ、ヒラメ養殖
中国のトラフグ養殖は、福建省で1980年代後半から1990年代初めにかけて、台湾資本と日本人技術者の指導で始まった。筆者は、1993年訪中時に、日本で研修した技術者が受精卵を持ち帰り、種苗生産し、3x3mの小さなイケス数個で養殖しているのを浙江省にて確認した。 その後、海面イケス養殖は、これら両省沿岸海域で発展するかにみえたが、「痩せ病」等の疾病による生産歩留まり低下や、対日活魚輸送不備等の原因で次第に終息していった。一方、北部の渤海湾沿岸地域では、エビ養殖用土池が、ウイルス疾病による壊滅的被害を受け放置されていた。しかし、1995年頃から、そのエビ養殖用土池を利用した、粗放的陸上養殖+屋内越冬タンク方式が急速に発展していった。受精卵は当初、日本からハンドキャリーにて持ち込まれていたが、2000年頃から減少していった。
渤海湾沿岸海域での養殖方式は、広大な土池、屋内越冬タンク(石炭・天然ガス加温)、海面イケス(養殖用・出荷前の蓄養用)の3方式があり、季節・用途によりそれらを組み合わせて養殖している。
2004年フグ類養殖生産量はFAO(国連食糧農業機関)によれば、14,861トンとなっているが、筆者は約4,000~4,500トンで、その内訳は対日輸出が2,000~2,500トン、対韓輸出が1,500~2,000トン、国内消費100~500トンと推測する。
中国のヒラメ養殖は、陸上タンク掛け流し(冬季用石炭ボイラー併設)方式である。1995年頃から山東半島沿岸及び大連近郊にて、韓国人技術者の指導により、韓国からの受精卵、飼料の持ちこみで急速に発展していった。韓国や日本にも少量輸出されたが、トラフグと違い国内でほとんど消費されている。価格は500g/尾サイズで3,500円/kgまで高騰した事があるが、2000年以降ヒラメ価格が下落していったため、養殖人気魚種はヒラメ→ターボット→ホシガレイ→シタビラメに移行している。
山東省がターボットの主産地であるが、残留薬品問題で2006年11月から上海、広州、北京など大消費地への出荷はストップし、その後、解禁したものの中国の消費者は敏感に反応し、魚離れ現象へと発展し養殖業者は困難な状況になっているようである。
2004年養殖生産量は、FAO(国連食糧農業機関)によればヒラメ類57,200トン、カレイ類8,000トンとなっているが養殖地域は限定されており実際の生産量はこの数字をかなり下回るものと考えている。
今後の日本のトラフグ養殖
トラフグについては、2008年北京オリンピックを契機に、中国内でトラフグ食が解禁されることを期待する声を聞くが、対日輸出で利益が出ている間は解禁しないと思う。しかし、今シーズンのように、11月から国産物でも1,500円/kgという安値をつけた日本市場には、中国輸出業者も失望していると考える。しかも、以前は沿岸で漁獲されていた雑魚は乱獲で激減し、イカナゴは輸出等の需要で価格が上昇している。さらに、越冬のため成長は抑制された上、燃料代も必要なトラフグは中国の養殖業者や種苗業者にとっても、薄利な魚種となってきている。実際、江蘇省などでは、国内消費可能な淡水フグ類の大規模養殖場が稼動している。しかも中国元(RMB)も日本円に対して着実に上昇してきており、中国からのトラフグ輸入価格も少しずつではあるが上昇してくるものと思われる。
日本でのトラフグは、海面イケス方式が主で、陸上タンク掛け流し方式は従である。大分県などで陸上ヒラメ業者がトラフグに転換する傾向があったが、ヒラメ価格の上昇とともにこの傾向は終息した。
海面、陸上共に養殖している生産者に生産コストについて尋ねたところ「酸素利用の開始以降、陸上のほうが海面よりも、歩留まりの向上と投薬の減少でコストは低くなった」とのことであった。ヒラメ養殖は、十余年に及ぶ韓国との競争に耐えて現在を迎えているが、トラフグ養殖は今まさに中国との熾烈な競争の最中であり我慢のしどころである。
日中の養殖場を比較してみると、日本の養殖場は、水温、水質等の環境条件や種苗生産や成魚品質の技術力では、中国よりも勝っているものの、規模(資金力)において劣っていると思う。行政との関係についても、中国側(検験局)のポジティブリスト制度へのすばやい対応から判断するに養殖業者と行政の綿密な連携があることが判断できる。
以上